理 念

1)日本医療で世界を笑顔にする

2)日本医療を世界レベルへ引き上げる

3)日本医療で日本経済を支える

日 本 医 療 の 危 機

日本は終戦直後より国民皆保険という医療インフラを整備し、国民の医療へのfree accessを実現させ医療者の仕事量を増やしたことで、医療技術が発展した結果、国民の健康を維持し平均寿命を向上させ世界で初めての超高齢社会国となりました。この時点で誰も取り残さない「国内SDGs」を実現させたと言えます。昭和の終盤には米国に並ぶ医療先進国家を実現した日本ですが、果たして、今でも日本は医療先進国を維持しているのか?そして誰も取り残さない医療を実践できているのか?

日本の人口は毎年50万人ずつ減少し、これに伴い患者数も減少しています。即ち医療市場(medical market)の減少です。さらに日本では、時折起こる自然災害以外は継続的に起こる大規模なテロや戦争もなく、交通事故死亡者も少なくなったため、高度な救急医療や集中治療に携わる医師、特に外科医や内科医、小児科医、産婦人科医そして救命救急医が激減しG7各国の平均値を下回ってしまいました。

また海外の患者さんが高度先進医療または高品質の健診を享受するために渡航する医療ツーリズムについては、日本へのinboundは2018年に約48万人で、大多数が中国人でした。ところがマレーシアには80万人、インド90万人、シンガポールは100万人、タイに至っては280万人ものinboundがあり、その半数以上が欧米白人です。

つまり日本医療は、先進国は愚かアジアでもかなりの遅れを取ってしまっていると言っても過言ではありません。

インドにN病院という心臓外科専門病院があります。ここでは年間6,000件以上の開胸手術が行われています。一方都内で最多のS病院ですらその開胸手術件数は年間800件程度です。このN病院に日本のJ大学病院心臓外科から毎年数名の医師が研修留学を行なっています。しかしそれはインド人医師に技術指導をお願いしているわけですから、インド医療はすでに日本医療を確実に凌駕していると判断します。

私がスリランカに内視鏡検査の指導に行ったのはたったの30年前です。しかし今では多くのアジア諸国が、日本医療に学ぶものがないと考えているのです。日本が医療先進国だと思っているのは多くの日本国民だけです。

このような結果を生じた原因は、日本が平和になったこと、そして日本医療市場が減少したからです。

しかし決して日本医療の技術自体が世界に遅れを取ってしまったわけではありません。

日本人医師は海外の医師に比べて極端に臨床経験が不足しているのです。表1、表2で示すように、中国と比べても医師の症例数の差は歴然です。医療には知識と技術が肝心ですが、いずれも経験がなければ身につきません。症例数を求めて医師たちは都心に集中しますが、それでも海外の医師が経験する症例数の10分の1程度。症例数で大きく水を空けられ、十分な技術を磨けないのです。これでは世界に必要とされなくなるどころか、自国民の健康をも他国に委ねることになりかねません。医療による国家安全保障の崩壊は間近に迫っています。

死 亡 者 数日 本中 国比較(中国/日本)
が ん34万人429万人13倍
心疾患18万人379万人21倍
脳疾患12万人339万人28倍
交通外傷6000人25万人42倍
表 1

 日 本中 国
医 師 数33万人(2.7人/1000人)260万人(1.9人/1000人)
看護師数122万人(11人/1000人)350万人(2.2人/1000人)
表 2

日本医療に十分な経験値を与え、知識と技術を維持して行くためには、世界の医療市場に日本人医師や看護師を派遣し、研鑽させる必要があります。特に次世代の若手医師がそれを担わなければなりません。ただ、日本人による指導でなければ日本医療の真髄である患者に対する「診療の姿勢」を伝えられないと、私は考えています。世界に類を見ない優しい日本の医療は、外国人医師の人智を超えたものがあります。その日本医療で、海外の患者さんを助け、年間600兆円と言われる世界医療産業へのシェア拡大にもつながれば良いと思っています。その結果、海外の国が健康になり社会成長を助けることができ、未来の日本国民の健康にも貢献します。

日本医療はタイやインド医療に遅れを取り始めています。心疾患はインドやカナダで手術を受ける日本人も数多くいます。将来は日本での治療を完結できなくなり、紹介状を持参して海外へ向かわなければならないかも知れません。私は日本人医師としてそんな姿を見たくはありません。

日本医療のoutboundは、国家事業またはそれに準ずる民間事業でなければなりません。

理由は、日本人医療者が国民皆保険という国家事業で動く公務員であり民間事業に対する不安が強いからです。また、海外へ行くことでキャリアを失う危険を冒す医療者がほとんどいないことも理由になります。既に20ヶ所以上の日本医療拠点病院が海外に設置されていますが、医療は現地人スタッフによって行われており、海外へ行っても現地人医師から学ぶ以外ないのが現状です。日本人指導医のいない拠点病院では日本医療を継承できないと考えています。

日本は「医は仁術」という言葉があり、医師は金銭目的ではない業務を行う聖職者のごとく扱われます。しかし海外では、医療は産業の一つであり、医師はその労働者の一人として扱われています。特に米国では、医療産業は全産業の25%を占める巨大産業で、世界の医療産業の40%を獲得しています。日本の医療費は社会保障費に含まれますが、約35兆円の規模です。この大部分を米国に持ち出されているのに気付いている者は少ない。何故なら多くのC TやM R I、薬剤、さらに手術機器は糸に至るまで米国製なのです。病院を作れば作るほど、手術や治療をすればするほど米国が潤っているのが現状です。

しかし、医療機器のアイディアや中身は日本製のものが数多くあります。手術電動ドリルのハンドピースを作る会社がありますが、製品化して売り出すのは米国でした。吻合機のアイディアも日本人が作りました。C Tや超音波、X線装置などは国産のものもありますが、米国大企業の営業力の前に屈してしまっています。国内中小企業にはこれを挽回する力はありません。

岸田総理が打ち出す経済成長は国家戦略として主軸になるものですが、GDPを増やしそれを分配することを意味していると思われます。しかし所得が増え続けても、さらにその上の所得を望むだけで、国が裕福になったと実感できる国民はいないはずです。国を裕福にする経済成長戦略は、世界に日本の技術や製品を輸出し、それによる経済効果として日本国内が活気付き、国際社会で日本が健康に生き続けることだと思います。日本の数ある産業の中で衰退してきた産業を復活させる動きもありますが、医療は日本の国技だと思っております。日本人が実施する優しい医療は、誰にも真似できない世界に誇れる産業です。これを世界に売ることこそ最速の経済成長戦略だと考えます。

日本医療技術が海外からの魅力を失う前に、官民一体となり、早急に国家レベルで日本医療のoutboundを成功させなければなりません。

私たち国際医療テラスは、これからの日本医療に危機感を持ってこのプロジェクトを進めています。

人間の安全保障を推進するために

「人間の安全保障Human Security」とは国家の安全保障を、より国民の身近なものとして、人間一人ひとりを生存・生活・尊厳に対する脅威から守り、持続可能な個人の自立と社会作りを促すという故緒方貞子氏らが提案した考え方です。日本は日本人によって社会を守って行かなければなりません。国家の経済成長も重要ですが、最も優先すべきは国民の命であり健康であることは言うまでもありません。日本人医療者が日本国民の健康に責任を持って支え続けなければなりません。我々は医療の知識と技術そして姿勢を若手医師に伝え、その臨床経験ができる場を与え続けなければならないのです。そのために海外の医療市場 medical marketでの活躍の場を作ろうと考えています。

日本人医療者は日本国の財産であり、宝物です。従って、彼らを闇雲に海外へ放出することはできません。国際医療テラスでは現在海外に存在する個々の日本医療拠点病院や日本企業が出資する医療施設と連携を取り、指導医を派遣し、研修医を募りマッチングを行います。co-medicalsに対しても同様に、個人の能力に応じた施設を審査し、希望に沿った拠点病院への斡旋を行い、安全な居住施設を準備した上で渡航までの援助を致します。海外での活動記録は個人の責任で作成して頂き、年度毎に指導者の監修を受けたものを帰国の際に、当社で再度評価します。それを国内医療機関の就職や役職の取得に活用します。私たちは海外の医療者一人一人を大切にし、十分な連絡体制を取り、万一の病気や怪我にも対応できるよう万全の対策を行います。海外での活動が臨床経験値を上げるだけでなく、キャリアアップにつながるよう、国家レベルでの検討が必要です。